溜池通信

思うに「r>g」という公式は、「資本収益率>経済成長率」と読み替えるから焦点がぼけるのであって、これを「不労所得>勤労所得」であると受け取ると、?し身に沁みて感じられるようになる。さらに「低成長で戦争のない時代」になると、r>gがより強くなってしまうので、「不労所得が勤労所得よりも重きをなす」ことになる。結果的に、「相続所得が労働所得よりも大きな割合を占める社会」になることを意味する。この説明の方が、本書のメッセージをよりリアルに伝えていると言えるのではないか。

?し身の上話をさせていただくと、1984年に日商岩井に入社した当時の筆者の全財産は10万円であった。この虎の子を、当時流行だった「中期国債ファンド」に入れて、今はなき山一證券に預けていた。それから30年以上が過ぎて、今現在、筆者が保有する資産はほとんどが自分で稼いだものということになる3。

この間、「格差」や「不平等」をほとんど意識しなくて済んだのは、今から考えるとまことにラッキーなことであった。昭和ひとケタ世代に育てられた地方出身者としては、「財産は個人の努力と倹約で作る」ことが当たり前であった。そもそも親たちはモノのない時代に質素に育っている上に、戦災で家を焼かれたり、インフレで財産が無価値になったりしている。そういうゼロスタートではあったが、幸いにも高度成長時代のメリットは享受した。筆者の前後の世代は、そういう楽天主義を親たちから継承していると思う。