- 分野を問わず説得力のある記事を書く力って重要だなとよく分かる対比であります。
<4月27日>(水)
〇この前からずっと気になっていることがあって、それは「バイデン政権による一連の対ウクラ
イナ対応をどう評価するか?」である。〇肯定論(与えられた条件でよくやっている)と否定論(油断を見せたからプーチンが攻め込ん
だ)は両方あり得るところで、不肖かんべえ自身は前者の側である。いつ核戦争が始まるかわか
らない今のような時期に、冷戦時代の怖さをよく記憶している指導者がアメリカのトップに居る
ことは、何物にも代えがたい安心材料だと感じている。〇それでも「ひょっとしたらなあ~」という思いはある。以前にも書いたように、2月中旬までの
アメリカ世論は"Stay Out"が多数派を占めていて、ウクライナに兵を出すどころか、そもそも首
を突っ込むな、という声が多かった。だったら変に期待を持たせるようなことを言うべきではな
いし、「曖昧戦略」もそれを見透かされるようではかえって逆効果となる。バイデン政権は、オ
バマ政権時代の「シリアの化学兵器はレッドライン→反撃せずにお茶を濁す」と、自分自身の
「アフガンからの早期撤退→カブール陥落」という2つの原罪を背負っている。安全保障問題
で、虚勢を張ることはできない相談であった。〇そこで何をしたかというと、バイデン政権はインテリジェンス情報を徹底的に開示した。普通
はそんなことは考えられない話で、それは貴重なネタ元をリスクにさらすことになる。しかるに
これだけ長く続いているところを見ると、ネタ元はヒューミント(クレムリンに深く食い込んだ
スパイ)ではなくて、オシント(公開情報)やシギント(通信、サイバー、衛星情報、AIなど)
によるのであろう。ともあれ、これだけ正確に当たってきたことを考えれば、バイデン政権はか
なり早くから「プーチンは必ずウクライナに攻め込む」ことを確信していたはずだ。〇ところがバイデン氏は不思議なメッセージを流したのである。アメリカ参戦の可能性を自分で
否定し、昨年12月に行われたプーチン大統領とのオンライン会談では、「もしものことがあれ
ば、重大かつ深刻な経済的損害を与える」と告げた。プーチン氏にとっては、これは「私はヘタ
レです」と言っているように聞こえたことだろう。あの人は典型的な「安保脳」なんで、経済制
裁の怖さは理解できんのです。〇そうでなくとも米民主党政権は、「安全保障上の最大のリスクは気候変動問題である」とか、
「米国防戦略の要諦は同盟国との統合的抑止である」みたいなことを言いたがる。2月14日という
微妙なタイミングで、ホワイトハウスが「インド太平洋戦略」を発表したことだって、「そう
か、お前は中国だけしか見てないわけね」という反応を招いた可能性がある。プーチン氏がミス
リードされた可能性は否定できない(自業自得だが)。〇何よりバイデンさんは、これまでずっと「戦わないことで利益を得てきた人」である。それは
2020年の大統領選挙を思い出せばわかる話である。民主党内の予備選も、トランプ大統領との決
戦投票も、みずからはあまり動かないでデラウェア州の自宅に引きこもっている間に、バー
ニー・サンダースは出馬を辞退してくれたし、ドナルド・トランプは勝手に転んでくれたのだ。
何か問題があったときに、正面から取り組むのではなく、流れに任せることで勝利を引き寄せる
タイプの政治家なのだ。〇そのバイデン氏は、常任理事国(=核大国)が本気で戦争を始めた場合に、止める手段がない
ことは良く知っていた。そして昔からプーチン氏のことも知っていた。普通のアメリカ大統領で
あれば、正面から立ちはだかって「ヤメレ」と言うところである。ところが、バイデン流は相手
に指させて局面を作らせて、自分はそれに沿って「後の先を取る」タイプである。これはこれで
ベテラン政治家らしい処世術ではある。〇今までのところ、バイデン流儀は図に当たっている。アメリカは武器をウクライナに供与する
だけで、ロシアの軍事力を思い切り削ぐことができている。この間にウクライナはもちろん傷つ
くわけだが、アメリカン・ボーイズが損傷するわけではない。経済制裁は世界的な規模になって
いるから、ロシアはむこう1年や2年は頑張り通すかもしれないが、いずれ10年単位で世界に劣後
することは間違いない。そしてこの間にガス欠になる欧州経済は、アメリカにLNGの供給を求めて
くるだろう。いやもう、結構毛だらけではないか。〇そのバイデン政権が、おそらくひとつだけ読みを間違えていたことがある。それは「あのゼレ
ンスキー大統領が大化けして、ウィンストン・チャーチルになってしまった」ことである。アメ
リカのインテリジェンス機関がどう判断していたかは知らないが、元コメディアン氏に対して
「安全な国への逃亡」を提案したのはどうやらホントらしい。ゼレンスキー氏はそれを蹴った。
そして雄々しく戦うことを宣言し、ウクライナ国民はそれに応えている。これは読みが外れる方
が自然であろう。〇ここから先はイフ(if)の世界だが、ゼレンスキー氏が国外に逃亡してしまい、ウクライナが
総崩れになっていた場合にアメリカはどう動いたのか。おそらくそっちの方がメインシナリオで
あったはず。ウクライナに傀儡政権が誕生するとか、東部や南部がロシア領に編入されるといっ
た事態は想定の範囲内で、米ロはあっけなく「シャンシャン」と手打ちになっていたのではない
だろうか。お主もワルよのう。〇このウクライナ情勢のおかげで、西側の指導者は軒並み支持率が上昇している。エマニュエ
ル・マクロンは辛く大統領として再選されたし、ボリス・ジョンソン首相なんて完全復活であ
る。われらが岸田さんまで支持率が上がっている。ところがただ一人、バイデンさんの支持率だ
けは上がらない。これはこれで、アメリカの有権者が大人の判断をしている結果なのかもしれな
い。
<4月30日>(土)
〇このところ毎晩、『機動戦士ガンダム』のTVシリーズを見返している。
〇もともと昨年秋にアマプラで見始めて、12話「ジオンの脅威」まで見たところでPCがぶっ壊れ
たのであった。この回のラストでは、有名な「坊やだからさ」のセリフが出てくる。シャアはガ
ルマ・ザビを守れなかったということでジオン軍内で左遷され、しばし物語から姿を消す。ここ
で序盤の終了となる。偶然にも切りのいいところであったのだ。〇春になってから、続きの13話「再会、母よ・・・」以降を見始めた。ガンダムの物語は、今見
るとあまりにも絵が単調で、使われている色も少ない。音楽も単純で、特に主題歌は手抜きと
言ってもいいくらいだ。少なくとも「エヴァ」や「ゴールデンカムイ」を見てしまった後では、
何とも食い足りない。それでも、これは1979年に作られたシリーズなのである。40年以上前のも
のなのに、見返すとやっぱり面白いのである。〇13話以降、アムロたちが乗ったホワイトベースは、ユーラシア大陸をゆっくりと西に移動す
る。そして25話「オデッサの激戦」までが中盤ということになる。この間にアムロが脱走した
り、リュウが戦死したり、「マチルダさぁぁぁぁぁん!」のエピソードがあったりする。それか
ら「さまよえる湖」が登場したことは、完全に忘れていた(16話「セイラ出撃」)。ロブ・ノー
ルの話は、あの頃は流行りだったんですよ。〇今回、映画化される『ククルス・ドアンの島』は、TV版では15話に相当して、この時期に多い1
話完結エピソードである。そこだけを切り出して1本の映画にするという手法で、スターウォーズ
でいえば『ローグ・ワン』みたいな感じだろうか。ワシ的には14話の「時間よ、止まれ」が好き
で、初めて見たときには「敵方が必死になっているところをちゃんと描いている戦争モノ」とい
う点にいたく感心したものである。〇で、この間にはランバ・ラルとかマ・クベ司令とか、ジオン側の魅力的な敵役が次々と登場す
るのであるが、いかんせん物語としてはダレ気味なのである。まあ、この間に登場人物たちは成
長していき、ホワイトベース内部の雰囲気も良くなっていく。最初の頃は頼りなくて、途中で寝
込んでしまったりしたブライト・ノアも、「手の空いている者は右舷を見ろ。フラミンゴの群れ
だ」のセリフが出る頃には、文句のつけようのない艦長になっている。〇物語が再びリズムを取り戻すのは、26話「復活のシャア」からである。やっぱりガンダムは彼
が居なかったら面白くない。三国志の真の主人公が曹操であるように、ガンダムもシャアによる
復讐の物語なのだ。ホワイトベースがジャブローを離れて、再び宇宙空間に戻る31話「ザンジバ
ル、追撃!」からはスレッガー中尉のようなクセ者も参加する。いやあ、この辺からが本当にガ
ンダムですよねえ。〇宇宙空間で立ち寄る「サイド6」ではいくつもの出会いがある。ワシ的にはララァとの出会い
よりも、ボケているアムロ父というリアリティがたまらない。そういう人間ドラマがあって、そ
こに「ソロモン攻略戦」でのソーラー・システム稼働という戦争の大きな転換が重なっていく。
いやあ、すばらしい。とうとう昨晩は、38話「再会、シャアとセイラ」までたどりついてしまっ
たではないか。〇ああ、もう残りは5話しかない。きっと今夜は一気に「ア・バオア・クー」から最終話の「脱
出」まで行ってしまうだろう。そこまで行くとほとんど覚えている。酒量も増えるに違いない。
いや、それくらいは構わないのだが、きっと連休の後半には、劇場公開版の方のガンダムを見返
すことになってしまいそうだ。まあ、どこにも行く予定がないし、3~5日は競馬もやっていない
からちょうどいいのである。〇とまあ、世の中は現実の戦争が起きているというのに、毎夜、フィクションの世界の戦争に逃
げ込んでいる。なんだか申し訳ない気もするが、これはこれで至福の時間なのである。