ため池通信

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<4月8日>(木)

〇今日は会社を休んで、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を見て参りました。憂き世を忘れてフィク
ションの世界に没頭する幸せな時間でした。ちなみに映画館は平日だけあって、ガラガラでありました。

〇何よりこの複雑な物語を、いちおう理解できたというのが自分的には驚きである。だって先週木曜日時
点では、ワシは「エヴァ」について何も知らなかったんですよ。今日はきっと、途中で訳が分かんなくな
ると思ってました。ところが1週間で4本を一気見したもんで、しかも暇な時間はそればっかり考えてい
たので、集中していたのが良かったのかもしれませぬ。

〇ということで、以下はほとばしるように何を書いてしまうか自分でもわからないので、ネタバレ危険と
申し上げておこう。これから『シン・エヴァ』を見る予定の方は、またのご来訪をお待ちしております。



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〇何はさておき、ワシはこの4部作に出てくる「絵」(背景)が好きだ。それも鉄道とか送電塔とか駅舎
とか街角の電信柱とか、人工的な景色の美しさがたまらない。リアルな兵器の機能美と滑らかな動きもこ
れに次ぐ。『シン・』では田園風景も出てくるのだけれども、やはり人工美の方がすばらしい。『シ
ン・』では南極決戦などイマジネーションのシーンが多くなるので、その点がイマイチ盛り上がらない。
『序』のヤシマ作戦あたりの「絵」がいちばん良かったなあ。

〇キャラはもちろん素敵だ。『シン・』は『Q』のラストで廃人同然になったシンジが再生し、「うつ抜
け」して戦って大人になる物語なのであるが、究極的には父ゲンドウの野心と純情の物語とも言える。こ
れは『スターウォーズ』がダース・ベイダーの原罪と贖罪の物語であるところと似ている。物語の軸とな
るのが親子の対立と和解の物語である、という点もまったく同じではないか。

〇ただしゲンドウのようなキャラは、この国のアニメでは昔から散々使われていて、そういう意味ではあ
まり新鮮味はない。たぶん原型は「昭和ひとケタ世代」であって、その中には『ルパン三世』の銭形警部
なども含まれる。彼らは不器用で純情で一本気で、本当は愛情があふれているくせに、自分の子供に対し
てなぜか優しくなれない。それから冬月というキャラも同様で、この国では昔から補佐役キャラが好まれ
る。冬月は自分の方が年上なのに、ゲンドウを理解して支えようとしている。これじゃ人気はテッパンで
すな。

〇ワシ的に面白かったのはミサトとリツコの関係である。旧来の日本のアニメや特撮モノにおいては、女
性はいつも「紅一点」だったので、女性同士の交流が描かれることは希であった。そういえば『ガンダ
ム』でも、セイラ・マスフラウ・ボウの掛け合いはあんまり記憶にない。その点、ミサトとリツコの関
係は、『序』の冒頭から「同志愛」と「腐れ縁」感を滲ませていて、こういうドラマは新鮮であった。映
画的には、アスカとマリのちょっとレズっぽい関係も「売り」(サービス、サービスぅ)なんだろうけれ
ども、そっちは想定の範囲内である。

〇ミサトとリツコは共に重責を背負っている。『七人の侍』における勘兵衛と七郎次のように、長い時間
を共に過ごしてきたコンビのみが持ち得る練れた関係なのだけれども、それが女性同士だという点がすば
らしい。そこが当世風なドラマになっていて、これは日本アニメのひとつの進化ではないかと思う。

〇ということで、自分は「元気な女性キャラ」が好きなのだということに突然、気がついた次第である。
綾波レイ(正確には「アヤナミレイ(仮称)」)は全編を貫く強烈な魅力ではあるのだけれども、ワシ的
には「萌え」ないんですなあ。ちなみに「この映画の最終シーンに登場するのは、たぶんシンジと××だ
ろうな」という予想が当たったのは、自分でも驚きでした。

〇4本シリーズとしては、『序』と『破』、『Q』と『シン』の間に14年の月日が流れているので、この
間の物語をかなり端折っている。そこでミサトや加治リョウジがNARFに造反する物語(たぶん渚カヲル
司令なんぞも登場する)が隠れていて、その辺は観る者にとっては不親切設計になっている。もっともリ
アルでもこの間に8年の月日が流れているので、そこはあんまり作り手を責められない。

〇とはいえ、「ニアサー」後のエヴァの物語、後からスピンオフで作ってもいいんじゃないかと思う。庵
野秀明総監督としては、『シン・ウルトラマン』と『シン・仮面ライダー』がこけたら、その手がありま
すな。シンジは出てこれないけれども、アスカやマリがその時に何を考えていたのかが気になります。そ
れからトウジ君やケンスケ君のエピソードも入れてほしいです。

〇などと、25年来のファンが無数にいるシリーズについて、わずか1週間のにわかファンが偉そうに語っ
てしまいました。たぶんこういうファンが発生することも、庵野総監督にはお見通しなんでしょうな。さ
て、明日からは真面目に仕事と競馬の日々に戻ろう。