安倍首相関連


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<8月30日>(日)

安倍内閣7年8カ月の功績は何だろうか。(ここでは第1期内閣のことは捨象
することにする)

〇多くの人が、「株価を上げたこと」だという。それはまあ、当たっているの
かもしれないけれども、株価なんて実は海外要因で決まったりするものだし、
そもそも期間が長すぎて成績評価には適していない。確かに就任当初、特に
2013年から14年にかけては大いに上がったが、それも黒田日銀総裁によるとこ
ろが大きかったわけで、とりあえず株価は脇に置いておく方がいいのではない
かと思う。

〇それでは何が功績だったかといえば、「今どき世界的には希なプロ・ビジネ
ス政治を8年近く続けたこと」ではないかと思う。安倍内閣の何がすごいかと
言って、消費税を2回も上げたことである。なおかつこの間に、法人税と所得
税は下げているのである。普通だったら、こんなことをすれば選挙で負ける。
ところがなおかつ国政選挙で6連勝した。誰も言わないけれども、これは奇跡
的な成功だと思う。

〇税制の中心を直接税から間接税へ。昔よく言われたこの課題は、ほとんど達
成されているんですね。その結果、何が起きたかというと歳入の安定である。
令和2年度予算は、コロナがなければ史上最高の歳入となっていたはずである。
財務省はこの間、何度も官邸に煮え湯を飲まされてきた、そのたびに出方を読
み違えた、などと言われるけれども、実は手中の一羽はしっかり確保していた
のだと思う。

〇「今どき珍しいグローバル路線だった」ともいえる。何といっても通商政策
では、従来の日本のイメージを一新した。今まで、いつも他所の国にダメ出し
してもらって最後に折れる国だったが、TPPでは後から入ってきて、米国が抜
けた後は交渉妥結の救世主となった。日EU経済連携協定もまとまった。日英も
ほぼ妥結済みとのことである。こうなると日本の主要貿易相手国で、FTAがな
いのは中国、韓国、台湾くらいということになる。

〇インバウンドの伸びも目覚ましかった。2011年の訪日外国人客数は621万人。
これが2019年には3188万人になった。問題は今年が大激減になってしまったこ
とで、1~7月の合計が395万人である。いやー、すごいことですねえ。観光立
国路線はこれからどうなるのか。いや、そんなこと、どうか私には聞かないで
くださいまし。

〇それから、これも間違いなく入れるのは「雇用を増やした政権だった」とい
うこと。毎年、40~50万人も人口が減る国で、雇用者数は2012年12月の5495万
人(男3134万人、女2360万人)から、2020年6月の5909万人(男3240万人、女
2670万人)にまで増えた。といっても、コロナのせいで、既にピーク時から
100万人は減っているのだけれども。

〇内訳をみれば、男がほとんど増えず、女が増えている点にご注意願いたい。
今のような低失業率では、この国の男性はもうリザーブがほとんどなくて、雇
用者数の純増は主に高齢者の引退が伸びたこと、女性の労働参加が増えたこと
によって達成されている。だからこそ「働き方改革」「女性活躍社会」「一億
総活躍社会」「生産性革命」だったわけである。

〇こういう話を書くと、おそらく「でも俺の給料は上がらなかった」という人
が出てくる。そんなこと、知らんがな。というか、プロ・ビジネス政治という
ものは、本質的に評判が良くはならないものである。むしろアンチ・ビジネス
政治の方が、熱狂的な支持者が付く。でもそれを実践すると、得てして庶民が
最も不幸になる政治となってしまうものである(例はいっぱいあるよね)。

安倍内閣が再登板したころ、わが国経済界ではしばしば「6重苦」というこ
とが叫ばれていた。①超円高、②高い法人税、③FTAの遅れ、④高い電力料金、
⑤労働規制、⑥環境規制の6点である。全部解決したわけではないけれども、
こういう声が聞かれなくなる程度には、「経済界のことを気にかけてくれる政
治」が長く続いたということである。

〇ちなみに環境規制が緩和されたか、というと全然そんな感じはないのだが、
とりあえず「脱・炭素」みたいなことはあまり言わない政権でありました。も
ともと環境省が弱くて、経済産業省が強いからである。その経済産業省は、
「来年になったらバイデン政権かもしれない」ということに気が付いて、今頃
になって「石炭火力の見直し」と言い始めた。安倍内閣とは経産官僚が跋扈し
た8年間であったが、エネルギー政策についてはとても及第点は上げられない。
そういうところは「紺屋の白袴」みたいなところがあったと思う。

〇海の向こうのアメリカでは、トランプ政権下でこれまた夢のような「プロ・
ビジネス政治」が続いてきた。ただし、その賞味期限は残り少なくなっている
可能性がある。民主党のプラットフォームを見ると、途方もないことが書いて
ありますので、くれぐれも用心したほうが良いと思います。バイデンさんは穏
健な人ですが、「アンチ・ビジネス政治」をやりたくてうずうずしている人た
ちがいますから。

アメリカ政治を見ていると、「利益の共和党」と「理念の民主党」が定期的
に交代するので、経済政策はそのたびに揺れ動く。わが国の場合は、「利益の
自民党」に対抗できる「理念の野党」が存在しない(今度、合流する2つの野
党は、どう見ても理念じゃなくて、利益の合流ですもんね)。ポスト安倍も、
概ね前任者の路線を踏襲することになるのだと思います。

〇だからこそ、来月の自民党総裁選挙は安心して見ていられる。この秋の米大
統領選挙は、これはシャレにならない戦いであります。

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Vol.69: 安倍総理辞任

1週間前に在任最長不倒となった安倍総理が辞任を表明。激震が走りました。
元々今週は最長不倒を受け安倍政権を振り返ろうと思っていましたが、流石に
辞任は予期していませんでした。文春などで体調の悪さは報道されましたが、
オリンピック・パラリンピックまで頑張ることを予想していました。

安倍総理自民党総裁に選ばれた時、多くの人は期待より不安を感じたと思い
ます。ここ数日何回も放映される一次政権時の退任シーンが強く印象に残り、
「どうせ長く持たないだろう」と思われたからです。就任後暫くマスコミの人
と話すたびに、「何とか薬で持ち堪えている」などのストーリーを聞きました。
実はその頃(総裁就任後、総理就任前)昭恵夫人が経営する居酒屋で夫人ご自
身と話す機会がありましたが、彼女は「夫に期待しない」という雰囲気でした。
総理就任前の党首討論野田総理が「解散」を持ち出した際、安倍総裁がうろ
たえていたことも印象に残りました。前後しますが、総裁選出自体も、石破さ
んとの差は僅かでした。

そうした中で最長不倒が実現した理由は3つあると思います。

・野党の不甲斐なさ・・・安倍総理の「悪夢のような」という表現の是非はさて
置き、国民は3年間の民主党政権に深く失望しました。そのうえ野党は統合と
いうより離散に向かいました。そうした中、国政選挙6連勝という圧倒的な選
挙実績を挙げ、総理の地盤は固まりました。一時は与党で衆参両院2/3すら確
保しました。

・ライバル不在・・・仮に自民、自公が盤石であっても、かつての自民党なら総
裁選挙で総裁が代わることがあり得ました。これまで最長不倒だった佐藤政権
終盤、よく「三角大福中」という言葉が用いられました。その後総理・総裁に
なる三木、田中(角栄)、大平、福田、中曽根の5氏です。その後にも竹下、
橋本、小沢などが控えていました。しかし今の自民党はひ弱です。今日時点で
次期総裁候補に名前が挙がる石破、岸田、菅、河野など、小粒に見えてしまい
ます。

アベノミクスの初期段階での成功・・・黒田総裁の政策もあり、株高・円安が
示現し、大企業中心に企業収益が急回復しました。賃金水準は余り上がりませ
んでしたが、雇用者数は4百万人増えました。賃金が上がらないことに着目す
るか、非正規主体とはいえ雇用者数が増えた(有効求人倍率も上がった)こと
に着目するかで評価は分かれますが、「賃金×雇用者数」で算出される雇用者
所得は間違いなく増えました。


次に安倍内閣の「実績」です。安倍総理は人により結構好き嫌いが分かれる総
理です。「実績」についても評価が分かれます。ただ、国会での安定多数を得
て長期政権を実現しなければ成し遂げることが難しかったであろうことを、少
なからず実現しています。他方で、総理自体が期待値を上げ過ぎ、それに届か
なかったこともあります。

(実現したこと)
元「官」の私からみて、普通の内閣なら無理だっただろうと思えることは下
記です。

・消費税率2回引き上げ(1回にとどまらず)・集団的自衛権行使を含む安全
保障法制・共謀罪・特定機密保護・労働市場改革

このうち、とくに安全保障法制には街頭での抗議を含め幅広い反対が起こりま
した。私自身も上記の5つ全てを内容面で支持している訳ではありません。し
かし、最終的に国民の声は選挙結果に反映されます。野党の弱小さが理由とは
言え、上記の施策の後も(2度目の消費税率引き上げを除き)国政選挙で圧勝
を続けたことは、消極的ながらも政策が支持されたと解釈されても文句は言え
ません。

(実現しなかったこと)
総理自身の「無念」の言葉を含め、以下の3点は実現できなかったことの代
表例です。

憲法改正拉致問題解決・北方領土返還

拉致と北方領土は相手のある話なのに、政権が国民の期待値を上げ過ぎた嫌い
があります。改憲は結局のところそこまでの切実感が無かったということでし
ょうか。また、公明党が政権に残る限り、9条を含む改憲は中長期的にも難し
いと思います。

(その他)
個人的に最も評価しているのは所謂TPP11です。農業関係者の方には叱られる
かもしれませんが、米国離脱後、リーダーシップを発揮し残る11か国をまとめ
上げた手腕は、これまでの日本外交に無い功績と思います。このほかEUとの協
定など、貿易交渉面では相応の成果が上がりました。

他方で、同じ外交面で残念なのは韓国との関係悪化です。これは文政権が悪い
と言ってしまえばそれまでですが、お互いもう少し大人の対応が出来ないかと
思ってしまいます。


元「官」として残念なのは、森友問題以降の一連の流れです。これが安倍政権
後半に総理への信認を蝕み、そして新型コロナウイルス感染症がそれにとどめ
を刺した流れと思います。

様々ありましたが、一言で括れば、一強となった安倍総理への忖度から公文書
も歪めてしまう、歪めないまでも隠そうとする、という案件が本当に何度も続
きました。官が国民でなく総理を見ることからくる事象です。昭恵夫人の過剰
なまでの天真爛漫さも足を引っ張りました。脇の甘い大臣の辞任も相次ぎまし
た。

そして新型コロナウイルス感染症問題。7年8カ月に及んだ安倍政権は、「ア
ベノミクス成功による高揚」「安定多数を背景とした強硬な政策運営」「森友
問題以降の信認低下」というフェーズを2年~3年単位で辿ってきました。新
コロナウイルス感染症直前までは、「信頼は出来ないが実力はある」という
のが、安倍内閣の評価の相場観だったのではないかと思います。しかし、感染
症に直面し「実力もない」ことが露呈しました。信認も実力もないので支持率
が下がります。そのストレスの下、潰瘍性大腸炎が再発(悪化)し、今回の辞
任に至ったと受け止めています。

個人的感想をつらつらと書いてしまいました。最後に2点。

安倍内閣のレガシーは何でしょうか?佐藤内閣には「沖縄返還」があり、ノ
ーベル平和賞も受賞しました。安倍総理の場合、アベノミクスは一時の成果で、
今となっては誰もこの言葉を使いません。強行採決で通した各種政策も、国民
の幅広い支持を受けたものではないので、レガシーとなりにくいと思います。
TPP11は専門的過ぎます。実施されればオリンピック・パラリンピック招致は
評価されるでしょうが、そこまで持ち応えることが出来ませんでした。そして
感染症対策も途中となり、改憲も出来ず、高齢化・人口減少対応も中途半端な
ままです。安倍総理に厳し過ぎるでしょうか。

・長期安定政権をどう考えるか。難しい問題です。1年ごとに総理が交代する
姿は余りに異常です。しかし、7年8か月は長過ぎたとの印象も残ります。総
理に森友・加計・桜のような問題が無ければ印象が違ったかもしれません。例
えば米国大統領も8年が普通ですから。別の言い方をすると、選挙に勝つが国
民の信が薄い状況は不幸ということかもしれません。将来の総理の謙虚さや透
明性といった資質の必要性、我々が選挙で確り投票する大切さ、野党が今回の
国民民主党の内紛のようなこと無く、政権を取れないまでも与党から無視し得
ない程度の実力をつけることの大事さ、こうした当たり前とも思えることを認
識できたことが、安倍内閣の最大のレガシーなのでしょうか。