ため池通信

tameike.net

  • 原文を読むつもりで後回しにしていた論文の要約を掲載して下さっていた。とてもありがたい。
<5月16日>(土)

〇Foreign Policy誌に掲載された論文、"Japan's Halfhearted 
Coronavirus Measures Are Working Anyway”「日本の中途半端なコロナ
対策は、とにかく機能している」が評判になっています。

〇書き手は、在日経験豊富なジャーナリストWilliam Sposato 氏です。
"Despite indifferent lockdowns and poor testing, Japan seems to be 
skipping the worst of the pandemic." (おざなりのロックダウンとお
粗末な検査にもかかわらず、日本は最悪のパンデミックを回避しつつある
ようにみえる)などと言ってます。面白いので、抄訳を作ってみました。
以下、ご参考まで。

コロナウイルスとの戦いの中で、日本がやっていることは全て間違ってい
るように見える。検査は人口比0.185%に過ぎず、ソーシャル・ディスタ
ンスは中途半端、国民の大多数は政府の対応に批判的である。ところが致
死率は世界最低、医療体制も危機を回避し、感染者数も減少傾向。奇妙に
うまく行っているのだ。

危機の初期段階から、検査は入院が必要な患者に限られていた。「感染拡
大を遅らせ、死者を減らすことが目的だ」と元WHO幹部の尾身茂は2月中旬
に言ったものだ。結果はお見事で、5/14時点でCovid19による死者は687人、
人口百万人当たり5人に過ぎない。米国では258人、スペインは584人、成
功と言われるドイツでさえ94人なのである。

日本が中国に近く、多くの観光客があり、世界で最も高齢化が進んでいる
ことを考えれば、ほとんど奇跡のような少なさである。日本の医療専門家
は、実数がより多い可能性を認めるものの、肺炎など他の死者数が予想外
に増えている兆候はない。

この国は単に運が良かっただけなのか、それとも良い政策の結果なのかは
容易に判じ難い。高官たちの発言も控えめだ。安倍首相は4月末に「残念
ながら感染者数は増えており、状況は深刻だ」と警告した。数は少なくと
も医療崩壊の懸念があると。日本緊急医学会は4月中旬に「緊急医療体制
の崩壊はすぐそこまで来ている」と述べている。

過去2週間の数値は明らかに減少傾向となり、緊張は和らいでいる。新規
感染者数は4/12のピーク時743人から5/14には57人となり、目標の100を下
回った。もっとも世論を安心させるほどではなく、共同通信の世論調査に
よれば57.5%が政府の対策に批判的である。

困るのは検査数が国際標準をはるかに下回り、実態が見えないことだ。
5/14時点で検査数は23.3万件、米国の2.2%に過ぎない。本来がそういう
仕組みで、コロナ診断を受けるためには特殊な病院に行かねばならない。
軽症者は診てもらえず、37.5度の熱が4日以上続いたときだけ検査を受け
るように指示される。このルールは厳格に守られ、検査を受けられない事
例は数多い。友人を助けようとした外国人女性の証言は、国際的な注目を
集めたものだ。

日本医師会の横倉会長は「検査能力が不十分だ」と認め、設備の拡大を求
めている。民間の検査も導入して、政府は高齢者や重篤者向けの即時検査
を拡充している。それでも実態はつかめず、ある専門家は東京の人口の6
%程度が感染しているのではないかと言う。

さらなる問題はデータの収集法だ。感染の報告はかならず医師が手書きで、
保健所にFAXして、それが政府で集計される。医師の貴重な時間が無駄と
の批判に接し、IT担当大臣が問題を認めた。データの動きもでたらめで、
日と月は少なく、金と土に跳ね上がる。

しかし人口比1~2%の検査をしながら、多くの死者を出している国に比べ
れば、さしたる問題ではあるまい。深刻な感染を回避している国は、気温
が高かったり人口が若かったりする。日本はそのどちらでもないのだが、
とにかく死者は少ないのである。

日本の自主的なロックダウンも切迫感を欠いている。緊急事態宣言があっ
ても、政府は外出禁止や企業の休業を命じることができない。米国が書い
た戦後憲法のお陰である。ソーシャル・ディスタンスも個人の善意に委ね
られている。東京都が最初に自粛要請を出したとき、職員が新宿で早く帰
るように促した。飲食店は低調に午後8時休業を求められた。終電までの
飲酒で、オフィスでのストレスを発散する日本人サラリーマンには打撃で
ある。

人との接触を7~8割減らす、と目標は高い。実際にそれに近い数値を達成
しているし、「ゴールデンウィーク」の帰省ラッシュも止められた。JRは、
新幹線の乗車率が5%程度だったと語る。窮屈なアパートからの通勤は18
%減に留まるが、東京の中心部の人出は6割減っている。誰もがマスクを
着けていて、そのことに関する苦情はほとんどない。

日本人は自分たちが法令順守で健康重視なのだと言いたがるが、皆が真剣
に取り組んでいるようには見えない。その典型がパチンコ屋で、閉店を拒
む店もある。政府は店名を公表したが、開店前から長い行列ができていた。
東京でコロナ陽性を告げられたのに、高速バスで帰省した女性の例も報道
されている。しかも犬が心配で、再びバスで東京に帰ったのだそうだ。

それでも一般論として、互いに気を使い、距離を取り、握手をせず、衛生
観念の高い日本の文化が(計量しにくいけれども)、効果をもたらしたの
だろう。不幸にして文化の悪い面、医療従事者や患者への悪意ある対応も
目に付く。表向きは称賛されつつも、看護婦の子供が保育園で忌避された
りした。日本医師会の横倉会長が業界を代表して要望し、差別はやや減っ
たと言う。

数字の減少傾向を維持すべく、安倍首相は緊急事態宣言を5月末まで延長
した。だが自粛疲れもあり、ルールを緩和した。公園などの公共スペース
は開業し、東京など大都市を除く地方では制限が緩和された。限られた範
囲とはいえ、ビジネスは再開されつつある。他国と同様、日本が新たな危
機を招くことなく、このまま足抜けできるかどうかはわからない。もっと
も、日本はなぜ最初から危機がなかったのかも、多分わからないままなの
だが。