かんべえの不規則発言

<1月23日>(月)

○トランプ政権の誕生とは、かつて田中真紀子氏が外務大臣に就任した時の外務省のような現
象であり、一種の「罰ゲーム」だと思うのです。ある日突然、空から恐怖の大王が降りて来
て、組織を思う存分にかき回し、構成員にとてつもない不条理を押し付けた。なおかつ、その
とき国民は喝采を叫んでいた。今でこそ、誰も相手にしない人になってしまいましたが、あの
ときの真紀子大臣は何をしても許された。それは外務省における一連の不祥事という「罪」が
あったからこそ、という点を忘れてはなりません。

○なぜトランプ政権という罰がアメリカに下されたのか。トランプ氏はよく「忘れられた
人々」(The forgotten man and woman)という言い方をしますけど、だったら誰がその人た
ちのことを忘れていたんだ、ということになる。それこそ、ワシントンのインサイダーたち、
それは政治家のみならず、メディアやさまざまな分野の専門家も同罪と考えるべきです。その
中には、当然、エコノミストも含まれます。

アメリカ経済は良くなっている、ということですべてを片づけてきた。でも、よくよくデー
タを見ていれば、ラストベルトの白人高卒男性の4人に1人は仕事がないとか、白人中高年の死
亡率が上昇しているとか、特に薬物中毒による死亡が急増しているとか、アメリカ社会が「病
んでいる」兆候はいっぱいあったのです。ただし、そういう問題意識は広く共有されていな
かったし、ましてや政治課題として浮上することもなかった。ドナルド・トランプ氏が共和党
予備選挙に登場するまでは。

○もっと言うと、そういう人たちに同情することは「イケてない」ことであった。逆にマイノ
リティやLGBTに肩入れすることはカッコいいこととされていた。ヒラリーは、「トランプ支持
者の半分は嘆かわしい人たちの集まり」と呼んだ。オバマも以前、「田舎で失業に苦しんでい
る人たちが、社会に怒りを持つようになり、銃や宗教に執着している」と言ったことがある。
今回のトランプ政権を誕生させたのは、まさしくそういう人たちでありましょう。でもホンネ
の話、今でもメディアや専門家たちは、彼らのことを腹の底で馬鹿にしていると思う。

○「忘れられた人々」が怒っていることはたくさんあった。イラク戦争とはなんだったのか。
戦場でひどい目に遭った人は少なくない。2008年金融危機では多くの人が家を失った。大学を
出た時に就職が全くなかった、もしくはローンだけが残った、なんて若者も多かった。途中で
政権交代があったから、過去はケジメがついたというのはさすがに甘い。だってワシントンに
居るような人たちは、攻守を入れ替えただけで「哀れ」とは程遠い状態ではないか。「アイツ
ら全員総とっかえだ!」という怒りが、2016年選挙の原動力となったのではないだろうか。

○そういう意味では、彼らの復讐は着々と果たされつつある。「外務省は伏魔殿」とうそぶく
大臣が、伝統ある組織を無茶苦茶にしていたとき、快哉を叫んだ日本人は少なくなかったもの
と拝察する。あれと同じようなことが進行中だと思うんですが、これはもう関係者ご一同が
ちゃんと反省するまで、トランプ大統領殿のご乱行は続くのだと思いますよ。まあ、付き合わ
なきゃいけない日本外交としては大変ですけれども。