かんべえの不規則発言

  • 貿易収支について良いこと書いてあって、何処で切ったらよいか分からないのでまるごと一日分引用させて頂くことに。毎回勉強になります。

<1月25日>(水)

○「2011年は31年ぶりの貿易赤字だった!」というのが、本日の発表であります。お陰で少し円安に触れて、ついでに株価も上がって、という展開でありました。ただし本件に関しては、たぶんに誤解が多いような気がしますので、以下、この世界の内幕を少々ご説明いたします。

○紛らわしいことに「年度」でいうと、2008年度は約7000億円の貿易赤字でした。でも2008暦年は黒字なんですね。リーマンショックの影響は2009年1-3月期が最悪でありましたので、そういうズレが生じます。だから年度ベースではほんの4年前に赤字があった。ところが暦年ベースでいうと、過去に遡って1980年まで赤字はなかったのです。

○さらにややこしいことに、7000億円の赤字というのはあくまで通関統計ベースの赤字でありまして、これをIMFベースに修正すると黒字になってしまうのです。どういうことかというと、通関ベースの統計は輸出はFOB、輸入はCIFで計算しています。輸入の価格は運送費と保険料がコミコミになっているんですね。IMFベースに修正する際は、これをFOBベースに直す必要があって、それをやると実額で7%程度減ることになります。だから今回の「2011暦年は2.4兆円の赤字だった」というニュースも、修正が行なわれると今よりも減ることになります。

○では2011年度はどうなるかというと、足下の1-3月期の輸出がどうなるかに懸かっています。ここで問題なのは欧州債務危機がじわ〜っとアジアに波及していることで、欧州系の銀行は意外とアジアで貸し込んでいるんですね。それが今は撤退気味なものだから、日本企業が輸出しようと思っても「L/Cが開けませ〜ん」みたいなことが起きてしまうのです。これはまさしくリーマンショック直後と同じ状況でして、銀行が動いてくれないと商社もお手上げなのであります。

○ですから、早いとこ邦銀がアジアに出かけていって、欧州系銀行の肩代わりをしなきゃいかんのです。とはいえ、邦銀も昨今はリスクを取ることに慎重になっていますので、その辺がちょっと不安材料かと思います。しみじみ大事なのは、欧州の金融不安をアジアに波及させちゃいけないということです。日本の輸出先はもう6割がアジア向けですので。

原発が止まっているから代替燃料の輸入が増えている、という点も一つのポイントです。とはいえ、このことによる増加分は、たとえば2011年度はLNGが前年比4割増くらいになるわけですが、2012年度がどうなるかを考えますと、たぶん量的には2011年度と同じくらいに止まるでしょう。そして値段は少し下がる見当になりますので、あんまり心配は要らんのじゃないかと思います。ということで、輸入は前年並み。貿易赤字が続くかどうかは、ひとえに輸出が復活するかどうかに懸かっております。

○以上、貿易業界からのトリビアでございました。結論として、あたしゃそんなに心配はしておりません。